2024年のカレッジフットボールのシーズンでは、University of Colorado (CU)がUniversity of Cincinnatiを破って6勝目をあげて、ボウルゲームへの出場権を獲得しました。低迷を続けていたコロラド・バッファローズにとって、6勝以上を達成したのは実に8年ぶりです。
コロラドの復活は、2023年のシーズンに、フットボール界のスーパースター「ディオン・サンダース」をヘッドコーチとして迎え入れたことから始まりました。「コーチ・プライム」と呼ばれるサンダースは、就任早々チームを大改革しました。その結果、2022年に年間でわずか1勝しかできなかった弱小チームは、全米から注目を集めるチームに生まれ変わりました。
コーチ・プライムの人気は、大学そのものの人気に直結しました。2023-24年度のアドミッションでは、アプリケーションが20パーセントも増加するという、CUにとって記録的な年となりました。報道によると、増加した20パーセントのうち、過半数が黒人学生だったそうです。黒人比率がわずか2.7%の大学にとって、前代未聞の成果です。
大学アドミッションにおけるフルーティ効果
スポーツチームの活躍により、大学の人気が高まりアプリケーションが増えることは、フルーティ効果と言われています。この言葉は、1984年にハイズマン・トロフィーを受賞したBoston Collegeのクォーターバック、ダグ・フルーティに由来します。フルーティが1984年のオレンジボウルで48ヤードのヘイルメリー・パスを成功させて、強豪のUniversity of Miamiに逆転勝利をしたことで、Boston Collegeの人気が一気に高まりました。
Harvard Business Schoolでマーケティングを教えていたDoug J. Chungの2013年の研究によって、Boston Collegeのアプリケーション30パーセント増が、フルーティの活躍によってもたらされたということが、明らかになりました。Chung先生によると、大学のぱっとしないフットボールチームが、急に大きな成果を収めると、アプリケーションが平均で17.7パーセント増加するとのことです。
University of Alabamaは、2006年にニック・セイバンをフットボールチームのヘッドコーチに招聘しました。2006年当時、Alabamaの新入生は約4,400人で、ACTスコアが30以上の学生は、13パーセントでした。その後、フットボールチームが11年間で5回の全米優勝を果たしたAlabamaは、2017年には新入生は7,400人にまで増え、そのうち41パーセントがACTスコア30以上でした。フルーティ効果は、単なるアプリケーションの増加だけでなく、学生の質の向上にも寄与することが、多くの大学で確認されています。
大学経営におけるフルーティ効果
大学スポーツの成功は、アドミッションだけでなく、大学経営自体にも大きな影響を及ぼします。2023年のNCAA男子バスケットボールトーナメントで、San Diego State University (SDSU)は、初めてファイナルフォーへの進出を果たしました。SDSUによると、ファイナルフォー進出を決めた直後から、同大学のウェブサイトのページビューは88パーセント増加し、アドミッションのページへのアクセスは59パーセント増加しました。その広告宣伝効果は、2億ドル相当とのことです。
SDSUのビジネス学部でマーケティングを教えるMiro Copicは、SDSUのファイナルフォー進出は、短期的と長期的の両面から大学経営に大きな影響を与えると分析しています。男子バスケットボールチームの活躍により、卒業生からの寄付と企業スポンサーシップは大幅に増加し、その傾向は数年続くとのことです。SDSUの財政基盤が強化されることにより、教育や研究への予算が増え、ひいてはSDSUがより優れた大学に進化することが予想されます。
フルーティ効果の持続可能性
どんなに優れたスポーツチームでも、長年に渡って勝ち続けることは難しいです。チームが勝てなくなれば、フルーティ効果は失われるのでしょうか。また、コーチ・プライムがCUを去れば、CUの全国的な知名度は、損なわれるでしょうか。
フルーティ効果は、一時的な効果であり、それ自体が永続的に続くものでは無いと言われています。フルーティ効果は、成長へのきっかけのひとつであり、そのきっかけを利用して、大学の総合的な価値を高めることが、効果を持続させることにつながります。
ワシントン州のGonzaga Universityは、1990年代の後半に経営危機を迎えました。学部学生数は、1990 年の 4,000 人以上から 1998 年には 2,800 人弱にまで減少しました。Gonzagaは財政赤字に陥り、信用格付けは低下し、基金は縮小し、職員数も削減されました。コスト削減のため、スポーツチームをNCAAの下位ディビジョンに落とすことも検討されました。
ちょうどその時に、フルーティ効果が起こりました。Gonzagaは1999年のNCAA男子バスケットボールトーナメントで予想外の大活躍で、エリートエイトに進出しました。大学の入学者が増え、多額の寄付金が集まりました。Gonzagaは、寄付金でアスレティックセンターを建てて、チームの永続的な成長を支援すると共に、さまざまな教育関連施設を建設して、教育・研究の質の向上を図り、学生の満足度を高めました。
Gonzagaに入学する学生の高校の平均GPAは、1998年の3.54から2016年の3.71に上昇し、SATスコアの中央値は、同期間に1159から1290に上昇しました。最初のフルーティ効果から20年が経過しても、その効果が持続している顕著な例と言えます。アカデミックとアスレティックの相乗効果で成長を続けるGonzagaは、2017年と2021年に男子バスケットボールチームが、全米チャンピオンシップに出場しました。2023年の学部学生数は、5,000人を超えています。Gonzagaの成功は、フルーティ効果を持続させたい多くの大学のお手本となっています。